かわず出ましたけど・・・

井の中の蛙が外に出てみて、感じること、想う事などつづってみたいと思ってます。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

僅かなとき3-3

実家の町内にある、瀟洒なマンションの地下に、ブロンシェはあった。

雑誌でも取り上げられている、阪神間では有名なレストランであったが、シェフは、無骨な感じの人で、取材は一度も受けたことは無かった。

ただただ口コミで、予約でいっぱいのお店であったが、何故か父がお願いをすると、必ず空席を作ってくれるのであった。

ダウンライトで、薄暗い中に、テーブルだけが、スポットライトで照らされている。豪華な生花が素敵に飾られた店内は、静かにシャンソンが流れていて、各テーブルにも小さなブーケが置かれていた。

ウエイターの身のこなしも、どうに入っていて、卒が無かった。

奥の6人がけのテーブルへスマートに案内されて、4人は席に着いた。

本日のお勧めコースをチョイスしフルで良いかと全員に確認して、父がオーダーをし、サーヴィスを待ちながら、美緒が口を開いた。

「志麻ちゃん。イギリス行きの件だけど、どうなっているの?誰からの命令?鏡子って人知ってるの?ゆっくり全部話して欲しいの。」

そう言うと、ライトの下に顔を突き出して、聞いた。美緒の髪がきらきらと輝いて見え、顔の陰影がくっきりと浮かび上がった。

薄い闇の中にゆっくりと腰をかけている志麻の表情は全く見えなかった。

声だけが静かにこぼれてきた。

父も母も固唾を呑んで、志麻の言葉を待っているようだった。

「何を言ってるの?美緒ちゃんがチケットを送ってくれたんじゃないの。だって、ほら、この手紙。わざわざワープロで、送ってくれたんでしょう?」

そう言って、志麻もライトの下に顔を出した。

志麻の手にはミントブルーの封筒が乗っていた。

美緒は平静を装って、その手紙を受け取り、読んだ。

まるで、美緒が旅行に誘うような文面になっていて、あたかも美緒がその旅費を全て出すから、同行するようにと促す内容になっていた。

「私が留学していてお世話になった家族の所に連れて行ってねって書いてあるから、もう連絡しておいたわよ。ウエインさんとこ。
ほんとにいいのかな~。甘えちゃって・・・スイマセン。小父様小母様。」そう言って、ぺろっと舌を出して、肩をすくめた。

「でも、鏡子って何?何の話か全くわかれへんねんけど・・・」

そう言って、座りなおした。横を見ると、もうアペタイザーと、アペリティフが運ばれてきた。

有機野菜たっぷりのサーモンのマリネを、ゆっくりと頂きながら、美緒は何とか志麻から糸口を引き出そうと試みたが、結局、志麻は、本当に何も知らないのかもしれないと、感じ始めていた。

両親も見るに見かねて、他愛の無い話で、その場の雰囲気を和ませようと、口を挟み始めた。

目が慣れてきて、薄暗がりの中で、店内を見回しながら、ふと、隣の志麻の席の背もたれに置いてあるバッグに目がとまった。

バッグの端からもう一通のミントブルーの封筒の角が1センチほど見えた気がした。その瞬間、志麻が背もたれに凭れてしまったため、一瞬だったが、確かに封筒のようにみえた。

「その封筒は何?もう一通あるんと違う?」そう言うと、志麻の顔が見る見る高潮して行った。

美緒は、やったと思った。尻尾をつかんだと思ったのだった。ところが、志麻はその封筒を取り出し、美緒にすっと渡したのだった。何の躊躇も無く・・・

急いで封筒の中身を見ると、パスポートと常備薬が少しピルケースに入っているだけだった。
「久しぶりに、イギリス行くから嬉しくて、会社の出張にまで、持って行っててん。ふふ。はずかしいわぁ。」

疲れた。おいしい食事も味気なく、志麻を完全に疑ってかかっていた美緒は、なんだか、拍子抜けしてしまい、デザートをおかわりしてしまった。

結局、何も、全く何もわからなかった。ただ、ひとつだけわかることは、相手は、どんなことも知っていて、どんな手でも使ってくるということだけだった。ただ、奇妙なことに、危険な匂いが、漂ってはこないということが、救われているように思われた。

スポンサーサイト

テーマ:作品 - ジャンル:学問・文化・芸術

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://blueorangekawazu.blog60.fc2.com/tb.php/86-0cd353f0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。