かわず出ましたけど・・・

井の中の蛙が外に出てみて、感じること、想う事などつづってみたいと思ってます。

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僅かなとき2-8

美緒の礼の言葉が終わり、少し涙ぐんだ美緒の肩に手を置き、ポンポンとなだめるように叩くと、マスターは明日の予定を確認すると言った口ぶりで、リビングを出て行った。

入れ替わるようにキッチンから入ってきた なほ が、マスターは、泣き顔を見せたくないものだから、脱出したのよと、自分も目を赤くして、美緒の前に、マロングラッセの壜を二つ置いた。琥珀色に輝く秘密のシロップに浸かった、大粒の栗が美しくしっとりと眠っていた。

「もってかえって、皆さんで食べて。この年の栗は出来が良くて、ちょっとだけ自信があるの。食べるときには面倒でも、シロップをきって、サーヴィングしてね。」

食べ方の流儀は、すでに会得していたが、その理由を知らなかった美緒は、なほ に、何気なく聞いてみた。

すると、なほ は思いもよらない返事を返した。

「この理由と、最初からのレシピは、あの栗の木を守って行ってくれる人にしか教えられないの。亡くなった恩人の遺言だから・・・。ごめんなさいね。美緒ちゃん、下らないと思う?」

「いいえ。でも、そんなに思いの深いものだったなんて、私知らなかったから、もっと、なんというか・・・大切にいただかなくっちゃいけませんね。」と、とっさに答えた。

すると、なほ は、崩れてしまうかと思うほどの微笑をたたえて、美緒を、見つめた。

「違うのよ。食べてもらうために作ったものなんだから、そんな、重々しく考えたら、おいしくなくなっちゃう・・でしょう?ふふふ。パクンと一口で食べちゃっていいのよ!おいしく、おいしく食べてもらえたらそれでいいのよ。」

そう言いながら、キッチンへ行くと、紅茶とあのフルーツケーキを少し持って現れた。

「明日、もって帰ってもらうように、ケーキも焼いておいたの。美緒ちゃんお気に入りのコレ!少しだけ、味見用も焼いておいたの。」

「こんなにたくさんいただいたのに・・ありがとうございます。
母もきっと大好きになると思います。前からこのケーキのことは話してるから、羨ましいっていつも言ってて・・・。あ・・このケーキにも何かその・・あるんですか?」

「いいえ!これは、私のレシピだから、あなたには教えてあげるわよ。
いつでも!ねぇ、デザートに食べましょうよ。甘いものは別腹でしょ?
お互いに。」

二人で紅茶とケーキを食べ始めると、マスターがウイスキーを片手に、やってきて、テーブルを囲んだ。

厄介なことなど無かったかのような穏やかな時間だった。美緒は、明日からのことは今は考えまいと決めて、ゆったりと3人の時を楽しんだ。

明日からはピリピリと張り詰めた日々がまた始まる。そう、お勝手の鍵は閉めたかなと、頭の隅で確認をしながら、マスターの家での最後の、短い夜を過ごした。

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テーマ:作品 - ジャンル:学問・文化・芸術

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