かわず出ましたけど・・・

井の中の蛙が外に出てみて、感じること、想う事などつづってみたいと思ってます。

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僅かなとき3-4

話はくい違ったまま、食事は終わってしまった。

「おいしかったわぁ。ごちそうさまでした。イギリス行きの件やけど、最初は冗談かと、思ってんよ。せやけど、チケットが同封してあるし、いや~っておもって、約束忘れてへんかってんやて、感動したわ。
美緒ちゃんと10年前、北海道に、二人旅に行ったとき、10年後、どちらかがリッチになってたらおごるか、お互いがおんなじくらいやったら、割り勘で、絶対イギリス行こうって。」そう言いながら、店を出て、志麻の家まで送って行きながら、言われて初めて思い出した。

そうだ。そんな約束をした。なに・・これ・・偶然?誰かに10年も前から・・そんなはずは無い。でもチケットは見も知らぬ‘鏡子’なる人物から送られてきていて・・・でも確かに約束はした。

「美緒ちゃん東京で何か成功したんやねってはなしててんよ。うちで。
明日の飛行機の中でしっかり聞かしてもらおうと思って、あえて連絡しいひんかってん。」

「今日はおじさん、おばさん、ありがとうございました。じゃ美緒ちゃん明日ね。あ、そうや、電車で梅田に出て、シャトルバスで行くやろ?
関空。」

美緒たち家族は、絶句していた。そうか、飛行機は明日飛び立つし、志麻は何も知らない。現実に行くことなど、想定の範囲を超えていたから、明日の準備もしていないし、ましてや、関空行きのルートなど、
頭の隅にも無かった。

とっさに父が、志麻に美緒の身に起こった今回のことを、志麻の家の玄関の前で立ったまま、ざっと話して聞かせた。

志麻は困惑し、突然であったが、約束のためにと有給をこれに当てて、長期休暇をとったこと、上司に散々いやみを言われて、仕事も、いじめのようにやらされて、今日やっと終えて東京から帰ったのに、そんなことならば、なぜもっと早く行ってくれなかったのかと、早口でまくし立てた。

もっともなことだと美緒は、ただ黙って聞いていた。

ただならぬ外の様子に、志麻の家族が慌てて出てきて、美緒一家を招きいれた。外での立ち話では何だからと・・・

客間に通されて、志麻の両親と共にテーブルを囲んで、最初からのいきさつを父がわかりやすく話した後、志麻の両親は、そのような訳のわからないことに巻き込まないで欲しいと、率直に言った。

無論当然のことだ。志麻は、うつむいて泣いていたが、美緒の切羽詰った状況を聞いて、自分の比ではない、美緒の恐怖や危険をおもんばかって、さっきの非礼を詫びた。

自分のことばかりを考えて、まくし立てたことを恥じると言ってまた、泣き始めた。

もうすぐ、10時になろうとしていた。

美緒の父は遅くまで失礼をしたと、詫び、一家は志麻の家を辞した。

チケットは志麻から返され、美緒の手には、2枚のチケットが残った。


留守にしていた家を注意深くチェックしながら入り、各部屋を確かめてから、やっと着替えを済ませて、居間に集まり、明日のことを話し合った。

結論は、行かない。どこにも。ということになった。明日は月曜日で、大事な商談がある父は、仕事に出るが、母も美緒も、絶対に家を出ずに、電話もとらずにひっそりと過ごし、友人たちにそれとなく、近所を見回ってもらうことにしているのだと言う父に全てを任せると言うことになった。

今夜は戸締りをしっかりとして、3人で客間で川の字で眠ることにした。

何年ぶりかで枕を並べて、横になりながら話しているうちに、美緒は、ふっと意識が消えてゆくのを感じた。夢なのか現実なのか、どっちがどっちだかわからない、フラッシュのようにたくさんの夢を見ていた。


両親は、美緒の寝顔を両脇から眺めて、一睡もせず、朝を迎えた

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僅かなとき3-3

実家の町内にある、瀟洒なマンションの地下に、ブロンシェはあった。

雑誌でも取り上げられている、阪神間では有名なレストランであったが、シェフは、無骨な感じの人で、取材は一度も受けたことは無かった。

ただただ口コミで、予約でいっぱいのお店であったが、何故か父がお願いをすると、必ず空席を作ってくれるのであった。

ダウンライトで、薄暗い中に、テーブルだけが、スポットライトで照らされている。豪華な生花が素敵に飾られた店内は、静かにシャンソンが流れていて、各テーブルにも小さなブーケが置かれていた。

ウエイターの身のこなしも、どうに入っていて、卒が無かった。

奥の6人がけのテーブルへスマートに案内されて、4人は席に着いた。

本日のお勧めコースをチョイスしフルで良いかと全員に確認して、父がオーダーをし、サーヴィスを待ちながら、美緒が口を開いた。

「志麻ちゃん。イギリス行きの件だけど、どうなっているの?誰からの命令?鏡子って人知ってるの?ゆっくり全部話して欲しいの。」

そう言うと、ライトの下に顔を突き出して、聞いた。美緒の髪がきらきらと輝いて見え、顔の陰影がくっきりと浮かび上がった。

薄い闇の中にゆっくりと腰をかけている志麻の表情は全く見えなかった。

声だけが静かにこぼれてきた。

父も母も固唾を呑んで、志麻の言葉を待っているようだった。

「何を言ってるの?美緒ちゃんがチケットを送ってくれたんじゃないの。だって、ほら、この手紙。わざわざワープロで、送ってくれたんでしょう?」

そう言って、志麻もライトの下に顔を出した。

志麻の手にはミントブルーの封筒が乗っていた。

美緒は平静を装って、その手紙を受け取り、読んだ。

まるで、美緒が旅行に誘うような文面になっていて、あたかも美緒がその旅費を全て出すから、同行するようにと促す内容になっていた。

「私が留学していてお世話になった家族の所に連れて行ってねって書いてあるから、もう連絡しておいたわよ。ウエインさんとこ。
ほんとにいいのかな~。甘えちゃって・・・スイマセン。小父様小母様。」そう言って、ぺろっと舌を出して、肩をすくめた。

「でも、鏡子って何?何の話か全くわかれへんねんけど・・・」

そう言って、座りなおした。横を見ると、もうアペタイザーと、アペリティフが運ばれてきた。

有機野菜たっぷりのサーモンのマリネを、ゆっくりと頂きながら、美緒は何とか志麻から糸口を引き出そうと試みたが、結局、志麻は、本当に何も知らないのかもしれないと、感じ始めていた。

両親も見るに見かねて、他愛の無い話で、その場の雰囲気を和ませようと、口を挟み始めた。

目が慣れてきて、薄暗がりの中で、店内を見回しながら、ふと、隣の志麻の席の背もたれに置いてあるバッグに目がとまった。

バッグの端からもう一通のミントブルーの封筒の角が1センチほど見えた気がした。その瞬間、志麻が背もたれに凭れてしまったため、一瞬だったが、確かに封筒のようにみえた。

「その封筒は何?もう一通あるんと違う?」そう言うと、志麻の顔が見る見る高潮して行った。

美緒は、やったと思った。尻尾をつかんだと思ったのだった。ところが、志麻はその封筒を取り出し、美緒にすっと渡したのだった。何の躊躇も無く・・・

急いで封筒の中身を見ると、パスポートと常備薬が少しピルケースに入っているだけだった。
「久しぶりに、イギリス行くから嬉しくて、会社の出張にまで、持って行っててん。ふふ。はずかしいわぁ。」

疲れた。おいしい食事も味気なく、志麻を完全に疑ってかかっていた美緒は、なんだか、拍子抜けしてしまい、デザートをおかわりしてしまった。

結局、何も、全く何もわからなかった。ただ、ひとつだけわかることは、相手は、どんなことも知っていて、どんな手でも使ってくるということだけだった。ただ、奇妙なことに、危険な匂いが、漂ってはこないということが、救われているように思われた。

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僅かなとき3-1

静かに夜が明けていく。小鳥達が起き出し、街の音が遠くから聞こえ始め、街全体が起きてしまうのに、数分と必要の無いようだった。

空は高く、澄みきっている。

両親も既にダイニングで朝食の準備を始めていた。

美緒は なほ からもらった、マロングラッセの壜を取り出して、サーヴィングをしはじめた。明日を前にして、儀式でも執り行うように、うやうやしく金色に光るシロップから取り出された大粒の栗の実が、つやつやと光っていた。

「このマロングラッセで、勇気百倍になれるような気がして、今日と明日は食べようと決めてたの。父さんも母さんも、食べるよね。」
そういいながら、母が骨董市で、やっと値切って買ってきた古伊万里の
小皿に取り分けた。

新聞を取りに行った父が戻ってきて、青ざめて聞いた。

「お前に届いた手紙ってこれか?」そういいながら、見覚えのある、ミントブルーの封筒を美緒の前に差し出した。

とうとう来た。やはり私が実家に帰った事も調べ,そのことを誇示する為に直接投函したのだ。メールでは与えられない恐怖を与える為に・・・

マスターがやっていたように、ハンカチで指紋に注意して開封した。

そこには、明日の出発時間と、航空券、鏡子なる人物の住所と、その地図。移動には、幼馴染の志麻が同行し、安全に、送り届ける。とあった。

帰りのチケットは3ヶ月のオープンチケットだった。

志麻は美緒の幼馴染で、実家の同じ町内に住んでいる。美緒は慌てて志麻に電話をかけた。

「しいちゃん、明日の事知ってるの?鏡子って誰、これってどういうことになってるの?何もかも知ってるんでしょう。今から、そっちに行くから説明して!」と電話をかけるなりまくし立てた。


「美緒ちゃん、落ち着いて。志麻は今東京に行ってるの、今夜戻ってきて、明日から美緒ちゃんとイギリスに旅行に行くんだって聞いてるんだけど、何かあったの?」志麻の母親が電話口でおろおろしてたずねた。

「あ、おばさんだったの。しいちゃんそっくりの声だったから・・・
しいちゃんいつごろ帰る予定?」

志麻の母は5時ごろ帰るといった。美緒は、礼を述べ、別段何も無い。
ちょっと聞きたい事があっただけだと、伝えて電話を切った。

美緒は、自身に落ち着け、落ち着けと言い聞かせ、、逆算して、何時ごろに志麻が新大阪へ到着するか計算して、4時ごろには、新大阪駅に、志麻を迎えに行くと決め、その旨を両親に伝えた。

ちょうどころあいに水分が切れたマロングラッセと、ダージリンティーをゆっくりと味わい、志麻に聞く事を考えていた。

さて、どこから、どの順番で、どのように聞くべきか。

これからの6時間は長くなるなと、頭の隅で考えながら、美緒はマロングラッセとトーストサラダを平らげた。

どう言う事なのだろう。こんがらがる糸の中で身動きが取れなくなるようで、底知れぬ恐怖を抑え切れなかった。





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僅かなとき2-12

二人は勧められた夜食に手をつけながら、さまざまな、考え得る推理を並べ立てたが、どれもこれも、ドラマや、小説のなかの出来事のようで美緒には真に迫ってくるものは無かった。

11時を過ぎて、本多親子は、帰っていった。ビールを少し飲んだが、いつもの陽気な雰囲気は皆無で、神妙な顔で,美緒に、
「気ィつけや。戸締りしっかりして、わしらも時間がある限り、この周りをうろついて、変な奴がいーひんか見とくようにするさかい、美緒ちゃんもしっかりな。ほなな。帰るわ。」と言い、暗い道を帰っていった。

このようなときに人の本性は表れるのだなと、美緒はぼんやり考えた。
以前は、漫才のように、大きな声で話す本多が、好きではなかった。
ことさらオーバーにおどける、うるさいおっちゃん。オタクの変な兄ちゃん。・・・と言うぐらいの感覚だった。

私、人の本質を見る目を養いたい・・一体どうすればよいのだろうか・・・そうすれば、あの時、何か気づけたのかもしれないな・・

そんなことを心の深いところで考えながら、本多たちの帰った後の食器の後片付けをしていた美緒がふと、窓の外を見ると、本多親子が、辺りを見回っているのが見えた。

急いで父にそのことを伝えると、窓の外を見ながら、携帯を取り出して、窓越しに本多親子を見つめ、深く礼を述べた。話のきっかけで美緒も一緒に頭を下げた。

二人はいつものようにオーバーな身振りで手を振って今度は本当に、阪急電車の夙川駅に向かって歩き出した。

美緒は、表現しようの無い心遣いに対する気持ちが溢れ、顔に微笑を湛えたまま放心したようにソファに座った。

負けるわけには行かない。どんな事があっても、私は、私の周りの全ての人たちを悲しませたり、迷惑をかけたりしてはならない。
美緒の心は決まった。どんなことが起きようと、あんな理不尽な人たちに負けない。

翌朝から、父と警察に、今回の全ての事柄を届けに出かけたり、うちの周りにセンサーライトを取り付けたり、今できる全ての事を講じることにした。警察は、パトロールを重点的にするというだけで、現状では何も出来ないと、案の状の対応だった。

Xデーまで2日に迫って、毎日報告電話をくれていたマスターからの電話が無かった。嫌な予感に襲われて、美緒は、マスターと なほ の携帯に電話をかけ続けた。

やっと繋がったのは、夜7時を過ぎた辺りだった。

「もしもし!マスター何かあったんですか!」出し抜けに大きな声で美緒はマスターを問いただすように聞いた。

「ビックリした!違うんだ。かみさんがね、玄関で転んで、腕を折っちゃって、病院に行ってて、遅くなっちゃったんだよ。あと二日だろう?
あんまり眠れなくってさ。ふらついて、手をついた所がわるくてね。心配は要らないよ。ポッキリ折れてて、手術は必要ないってさ。まったく!逆に美緒ちゃんに心配させちまって・・あ、そうそう、アパートの方は、何も無かったよ。そうなんだよ。それを電話で自分が伝えるって、急いで玄関上がりかけて、こけちゃってんだから。まったく。」

マスターは明るい口調で、そう言って、なほ に代わった。

「美緒ちゃん。ごめんね心配させて・・さっきから叱られてるのよ。
お前は落ち着きが無いって・・・ほんと、自分でも情けないわ。」

沈んだ声で話す なほ に気にしないようにと伝えてから、自分は大丈夫だから、心配は無用だと言って、くれぐれも大事にして欲しいと何度も念を押した。

マスターにもう一度代わってもらい、もう部屋を見に行かないでくれと伝えて、後二日で片がつくから、用があるなら、メールが来るはずだからと
なほ を叱らないで、自宅を出ずにすごして欲しいと言った。もし、自分が未だマスター宅にいると思われて、マスター達に何かあったら、どうしたらいいのかわからないのだと、正直な気持ちを伝えて、頼んだ。

マスターは了承し、なほ に睡眠導入剤を処方してもらったのだと言って、Xデーを静かに迎えることを約束した。

秋の気配が月の光を青く冴えさせている。虫の声も静けさを深くさせるように遠くに聞こえている。風の匂いが夏が終わったと教えていた。


                     第2章  完

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僅かなとき2-11

2日が過ぎて、父の友人である、通信関係の会社を営む本多親子が夜になって、美緒の家を訪れた。

二人は、人懐っこい風貌で、いつもニコニコと微笑みながら、大阪特有の漫才のような調子で話すのが常で、いつものように騒がしいくらい陽気に玄関に現れた。

しかし、居間に通されると、初めて見るような険しい表情が浮かび、瞬間部屋の空気が氷ついたようだった。

本多の息子の章仁は、機械工学科出身で、PCや、ネットのことに長けていて、ハッカーすれすれのことまでやってしまう、一種オタク罹った青年だった。

彼の言うには、美緒に送られてきたメールを辿っていくと、諸外国を経由して、発信本元が特定できないように、してあるというのだ。しかし、アメリカの政府の内部のサーバを通った痕跡が含まれていて、こんなことは通常ありえない。

イギリスの東部の在住である様子の”鏡子”なる人物が、何故にアメリカやその他の国を経由させるかその理由は、現実の所在地を掴まれたくない為しかないが、そんなことが出来るPCの使い手なら、章仁の耳に入らないはずが無いのだという。

ならばどのようなことが考えられるかと、父は半ば章仁を問い詰めるように答えを求めたが、結局、金銭目的ではないだろうし,美緒が、誰かから何か預って、それを狙ってる組織とか・・きな臭い内容しか思い至らないが、美緒のそんな身に覚えも無ければ、ただただ、お婆さんを見たというだけのことが、どんな意味を持つのかなど、ここにいる誰にも思いつかないのだった。

後残り一週間、何も起こらないことを祈って、時を過ごすか、こちらから何らか野アクションを起すべきか・・・美緒の心は揺れ動き、動悸が激しくなっていた。

「お母さん、気分おかしいから、横になるわ。」そう言って、自室へ引き込んだ美緒を、全員が静かに見送り、声を潜めて、居間で遅くまで推論を戦わせていた。

そのうち、美緒はゆらゆらと、現実なのか、夢なのかわからない、どこかに引きずり込まれるような感覚に襲われていった。

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